キッチンカーで独立開業を目指していらっしゃる方へ、今回は何を提供するのか、というメニューのお話です。
私は「東京肉骨茶」というキッチンカーを始めて、今はフランチャイズ本部を運営しています。
これまで多くの開業希望者の方々とお会いしてきましたが、皆さま大きな夢を抱かれる一方で、最も悩まれていたのが「メニュー選び」です。
そこで今回は、出店先の現場はいろいろありますが、一番一般的なランチタイムの出店で成功するために重要だと考える、メニュー選びの3つの視点についてお話ししたいと思います。
視点1:何よりも重要なのは「提供スピード」
オフィス街のランチタイムに並ぶキッチンカーを見て、なぜ丼ものやライス系のメニューが多いのか、不思議に思われたことはないでしょうか。
これには明確な理由があります。まず、ビジネス街で働く方々にとって、昼食は「お弁当」という文化が深く根付いています。そのため、ご飯の上に具材を乗せた分かりやすいお弁当のスタイルは、お客様に選んでいただきやすいのです。
そして、それ以上に重要なのが「提供スピード」です。お客様の昼休みは45分から1時間と限られています。その短い時間で食事を済ませる必要があるため、キッチンカーに長く待つ時間はありません。私たちの業界では「一人あたり45秒から1分以内での提供」が理想と言われるほど、スピードは生命線となります。
この「スピード」という観点から見ると、ランチタイムに不向きなメニューというものが見えてきます。
【麺類(ラーメン、うどん、そばなど)】
注文後に茹でる工程があるため、どうしても提供に時間がかかります。持ち帰りにくいという点もあり、ランチでの提供は難しいでしょう。
【炒め物(焼きそば、パスタなど)】
お祭りの屋台では定番ですが、一人前ずつ調理を行うため、行列ができてしまうとお客様をお待たせすることになります。ランチのオペレーションには厳しいメニューです。
【ピザ】
焼きたての提供には時間がかかります。調理済みのものを温めて提供するなどの工夫も可能ですが、やはりスピーディーな提供が求められるランチの主戦場では、難しい部類に入ります。
実際、こうした点も考慮して工夫しながらやっているキッチンカーもあります。ただ、以上の点もふまえて、丼物やライス系のメニューが適しているのです。
キッチンカーはレストランではなく、「迅速にお弁当を提供する専門店」である、という認識を持つことが、メニュー選びの第一歩です。
視点2:定番メニューが持つ「競合」という課題
では、提供が簡単な定番メニューであれば安心かというと、そこには別の課題が存在します。
例えば、カレーや唐揚げ。これらは保温しておけば素早く提供できるため、オペレーションは非常に効率的です。
しかし、同時に「競合が非常に多い」という壁に直面します。
カレーや唐揚げは、専門の飲食店はもちろん、コンビニやスーパーなど、あらゆる場所で手軽に購入できます。その中で、お客様が「あえてこのキッチンカーで買う理由」を明確に提示できなければ、選んでいただくことは困難です。
「このお店の味は他とは違う」という強い個性や、専門店にも負けないほどのクオリティがなければ、競合の多さの中に埋もれてしまう可能性があります。
お客様の視点に立ち、「わざわざこのキッチンカーで買う価値があるか」を自問自答することが重要です。
視点3:利益に直結する「フードロス」の管理
最後は、見落とされがちですが経営において極めて重要な「フードロス」の視点です。
キッチンカーは搭載できる食材の量に限りがあるため、売れ残りをいかに管理するかは、そのまま利益に直結します。
唐揚げや、オムライスに使用する具材などは、その日のうちに売り切れなければ廃棄につながるリスクがあります。売れ残りはそのまま損失となりますので、メニューとして扱うには慎重な判断が必要です。
その点、煮込み料理などは比較的フードロスが出にくいという利点があります。例えば、私どもの「肉骨茶」は、万が一売れ残っても冷凍保存することで品質を保つことができ、無駄がほとんど出ません。これは、ビジネスを継続する上で非常に大きな強みとなります。ちなみに、東京肉骨茶は、視点1・2を満たしている優秀なメニューなんですよ。自画自賛になりますが(笑)。
その日の売上を予測することはもちろんですが、「もし売れ残った場合、その食材はどうなるか」という視点まで持ってメニューを考えることが、安定した経営の鍵となります。
あなただけの「勝てるメニュー」を見つけるために
ここまでお話ししてきた「スピード」「競合」「フードロス」という3つの視点は、いわば成功のための羅針盤のようなものです。この羅針盤を手に、ご自身の「やりたいこと」と掛け合わせることで、初めて「あなただけの勝てるメニュー」が見えてきます。
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。
まず大切なのは、ご自身が「何を作りたいのか」「どんな料理でお客様を喜ばせたいのか」という情熱の原点です。その情熱あふれる一皿を、ビジネスの視点で磨き上げていくのです。
- お客様の視点でリサーチする
もし出店したいエリアが決まっているなら、ぜひ実際に足を運び、ランチタイムを過ごしてみてください。どんなお店が流行っているか、お客様は何を求めているか、競合店の強みは何か。机上の空論ではなく、ご自身の肌で市場を感じることが、何よりのヒントになります。
2.試作とフィードバックを繰り返す
メニューのアイデアが固まったら、何度も試作を重ねましょう。そして、ご家族やご友人に試食してもらい、率直な意見をもらうことをお勧めします。「美味しい」だけでなく、「提供時間はどれくらいか」「値段はいくらが妥当か」といった具体的なフィードバックが、メニューをより強くしてくれます。
3.ビジネスの視点と情熱を融合させる
最終的に、ご自身の情熱と、これまでお話しした3つの視点をすり合わせます。
- 提供スピード:この料理を、どうすれば1分以内で提供できるか?
- 競合との差別化:他店にはない、この一皿だけの価値は何か?
- フードロスの管理:無駄なく、安定して利益を出せる仕組みは作れるか?
これらの問いをクリアすることで、あなたのメニューは単なる「美味しい料理」から「売れる商品」へと進化します。
もちろん、私どものようなフランチャイズに加盟し、確立されたノウハウを学びながら独自性を加えていく、というのも賢明な選択肢の一つです。
実際に、私の加盟店様の中には、基本のメニューに加えて豚のバラ肉を使ったバインミーを提供し、お客様から大変ご好評をいただいている例もあります。
メニュー開発に関するご相談も随時お受けしています。
キッチンカーでの開業は簡単な道のりではありませんが、ご自身の作った料理でお客様に喜んでいただける、大変やりがいのある仕事です。
この記事が、皆様がご自身の「勝てるメニュー」を見つけるための一助となれば幸いです。