キッチンカーでの開業を夢見る人が増えています。

オフィス街でのランチタイム、賑やかなイベント会場など、活躍の場は多岐にわたります。しかし、「ランチ」と「イベント」では、求められる営業戦略が全く異なることをご存知でしょうか。

こんにちは。『東京肉骨茶(トーキョーバクテー)』の伊藤です。私自身もキッチンカーをやっている経験から、これまで数多くのオーナーさんの独立をサポートしてきました。

そんな経験から、キッチンカーを始める方に向けてお話させていただいています。

今回は、「ランチ営業とイベント出店の違い」を紐解いていきます。

見せ方がすべて! 看板と装飾の考え方

キッチンカーがずらりと並ぶイベント会場。

お客様は10m以上離れた場所から、どのお店に入るかを品定めしています。

ここで重要なのは、とにかく「目立つ」こと

イベントで戦うのであれば、床に置くA3サイズの小さなA型看板では全く不十分です。

後ろからでは見えないため、そもそもお客様の目に留まることすらありません。

最低でもキッチンカーの運転席を覆うほどの大きな看板(A2サイズ以上)や、遠くからでも認識できる「のぼり」が必須アイテムとなります。

そして、美味しそうな湯気が立ち上るラーメンの写真がドカンと掲げられていたり、「ラーメンイベントで日本一獲得!」といった特別感をあおるコピーが目に飛び込んできたり。

そうした「一目でわかる魅力」が、お客様の足を止めるのです。

一方、オフィス街でのランチ営業は様相が異なります。

実は景観を損ねるという理由で、のぼりの設置が禁止されている場所は少なくありません。さらに、発電機の使用も騒音や排気の匂いが問題視され、代わりにリチウムイオンバッテリーの使用が求められるケースも増えています。

オフィス街では、派手な装飾よりも、キッチンカーそのもののデザインや清潔感がお客様の信頼に繋がり、リピーターが安心して見つけられることが大切なのです。

価格設定のセオリーは真逆?

お客様がキッチンカーに求める価値も、場所によって大きく変わります。

イベントに訪れるお客様は、「ここでしか食べられない特別なもの」を求めているため、価格には比較的寛容です。

オフィスで1000円で販売するメニューが、イベントでは1500円でも十分に売れるのは、そのためです。スーパーで10円安い商品を探すのとは、お客様の購買心理が根本から異なるのです。

例えば、「山形まで行かないと食べられない老舗のラーメン」が目の前にあれば、1500円でも「食べてみたい」と思うのがイベント心理。価格よりも「希少性」や「限定感」をアピールすることが成功の鍵となります。

対照的に、オフィス街のランチでは「価格」が非常にシビアな問題になります。

周辺のレストランやコンビニ弁当が直接のライバルとなるため、よほどの付加価値がなければ1000円の壁を超えるのは困難です。

お客様は毎日のお昼ご飯として利用するため、コストパフォーマンスを重視するのは当然と言えるでしょう。

メニュー戦略と客層の見極め

提供するメニューも、場所と目的によって柔軟に変える必要があります。

オフィス街での最大の課題は「差別化」です。

周囲には無数の飲食店、コンビニ、そして他のキッチンカーがひしめいています。

その中で、どこでも食べられるようなカレーや唐揚げ弁当で本当に勝ち抜けるのでしょうか。

そうした定番メニューは、どうしても価格競争に巻き込まれやすくなります。

まず重要になるのは、「他では食べられない」というメニューの独自性です。

その上で、日常使いのランチとして満足できる「価格」と「ボリューム」のバランスが求められます。「このクオリティと量でこの値段はお得だ」と感じていただくことが、リピーター獲得に直結しますので、ボリュームは多い方がいいですね。

一方、イベントではその場の雰囲気に合わせた戦略が求められます。

花火大会や音楽フェスのように、食事が主目的ではないイベントでは、唐揚げやポテト、焼きそばといった、提供スピードが速く、誰もが知っている定番メニューが強さを発揮します。また、色々なものを少しずつ楽しみたいというお客様のニーズに応え、あえてボリュームを少し減らしたサイズで提供することも有効な戦略です。

さらに重要なのが、客層の分析です。

ご年配の方が多い場所なら温かい「汁物」、お子様連れが多いなら「フレンチフライ」や「焼き鳥」といったように、その場にいるお客様が「今、食べたい」と感じる”鉄板メニュー”を見極めることが、売上を大きく左右します。

あなたはどちらで輝きたいですか?

【イベント出店】

一見客が中心。大きな看板とキャッチーなコピーで「希少性」を演出し、高めの価格設定で大きな売上を狙うスタイル。

【ランチ営業】

常連客が中心。メニューの「独自性」で差別化を図り、価格とボリュームのバランスを追求して、安定した経営を目指すスタイル。

理想的なのは、ランチとイベントに半々くらいの割合で出店し、経営のバランスを取ることです。

特にランチ営業で生まれる常連客とのコミュニケーションは、メニューを改善するための貴重なフィードバックの源泉となり、日々のやりがいにも繋がります。

キッチンカーの成功は、自分の売りたいメニューと、出店場所の特性をいかにマッチさせるかにかかっています。

まずは自分がどちらのスタイルで挑戦したいのかを明確にし、戦略を練ることが、夢への第一歩となるでしょう。