こんにちは、「東京肉骨茶」の伊藤です。
うだるような暑さが続きますが、皆さん、夏バテはしていませんか?
「食欲が落ちて、なんとなく体がだるい…」
そんな方にこそ、私の作る肉骨茶(バクテー)を一度試していただきたいんです。
ありがたいことに、うちの店は真夏でも真冬でも売り上げがあまり変わらないのですが、特に夏になると、お客さんから「これで夏を乗り切ってるんですよ!」なんて嬉しい言葉をかけてもらいます。
それもそのはず、肉骨茶の故郷シンガポールは、一年中日本の真夏のように蒸し暑い「常夏の国」です。
そんな場所で、スタミナをつけるために日常的に食べられているのが、この肉骨茶。
暑い国の人たちが、汗をだらだらかきながら熱いスープを飲んで、暑さを乗り切る。
「熱を以て熱を制す」という考え方ですね。
日本の夏にピッタリな理由が、そこにあります。
そして、その元気の源になっているのが、スープに溶け込んだたくさんの「スパイス」です。
うちのスープには、トータルで18種類ものスパイスやハーブ、漢方が入っています。
まさに「食べる薬膳」!
これから少しずつ、その秘密を皆さんにお話ししていきたいなと思っています。
今回、第1回目は、東京肉骨茶の複雑で奥深い香りの中心となっているミックススパイス、「五香粉(ウーシャンフェン)」についてです。
五香粉は、スパイスの「ドリームチーム」
「この5つのスパイスは、合わせて摂るとより効果が高いんですか?」
はい、その通りです。
というよりも、「合わせて摂ること」にこそ、五香粉の真価があるんです。
漢方の世界では、生薬を組み合わせる際に「君臣佐使(くんしんさし)」という考え方があります。
これは、チームのようにそれぞれの生薬に役割を与えて、効果を最大限に引き出す処方のセオリーです。 五香粉もまさにそうで、単なる足し算ではなく、掛け算の効果を生む「スパイスのドリームチーム」なんです。
【チームの役割分担】
- 主役:スターアニス(八角)・シナモン
スターアニスは、体の内側、特にお腹の中から冷えを取り除き、血の巡りを良くする働きがあります。冷えが原因の腹痛や消化不良、腰痛の緩和にも良いとされています。
シナモンは、体の表面だけじゃなく、体の深部から温め、気血の流れを根本から改善してくれます。冷えからくる肩こりや関節痛、女性特有の不調の緩和にも使われます。
これらはチームの主軸となるスパイスたち。体を芯から温め、気血の巡りを良くするという、最も重要な働きを担います。
- サポーター:クローブ (丁子)・花椒
グローブは、非常に強い香りが特徴ですが、これは胃を温めて吐き気を鎮める効果が期待できます。そのパワフルな抗菌作用は、天然の防腐剤としても使われてきたほどです。
花椒は、舌が痺れるような辛みが特徴ですが、体を強く温めて痛みを和らげる作用があります。お腹を温めて消化を促し、食欲を増進させる効果も期待できます。
これらは主役たちを強力にサポートし、体を温める効果をさらに高めます。特に花椒のピリッとした刺激は、全体の味を引き締め、食欲を増進させる役割も担っています。
- 調整役…フェンネル
体内の「気」の巡りをスムーズにし、胃の働きを正常に保ってくれるハーブで、お腹の張りや食欲不振を感じた時に、そっと助けてくれます。
主役たちの力が強すぎないように調整する名バイプレーヤーで、例えば、温めるスパイスは胃に負担をかけることがありますが、フェンネルが消化を助けることで、その負担を和らげてくれます。
- 案内役…5つ全体の調和
全てのスパイスの効果が、体の必要な場所にスムーズに届くように導き、全体の調和を取ります。
このように、それぞれのスパイスがお互いの長所を引き出し、短所を補い合っているのです。
「バランス」こそが、体を元気にするカギ
もう一つ大切なのが、「バランス」という考え方です。
五香粉の「五」は、古代中国の「陰陽五行思想」にも通じています。
これは、世の中の全てのものは「木・火・土・金・水」の5つの要素で成り立っているという考え方で、人間の体も同じだとされています。
五香粉は、5つの異なる性質を持つスパイス(辛味、甘味、酸味、苦味、塩味)を組み合わせることで、この五行のバランスを整え、体全体の調和を取り戻す手助けをしてくれるのです。
一つのスパイスだけを大量に摂ると、体のバランスが偏ってしまう可能性があります。
しかし、五香粉のようにバランスを考えて配合されたものを摂ることで、消化器系、循環器系など、体の様々な部分に穏やかに、かつ総合的に働きかけることができる。
だからこそ、夏バテで弱った体にじんわりと染み渡り、内側から優しく元気にしてくれるんですね。
もちろん、肉骨茶の魅力は五香粉だけではありません。
疲労回復を助ける豚肉やニンニク、体を温める生姜など、他のメンバーの活躍もあってこそ。彼らの話は、また次の機会に。
まずはこの夏、スパイスのチームワークが光る私の「食べる薬膳スープ」で、元気を取り戻してみませんか?
キッチンカーで、皆さんのお越しをお待ちしています!