セカンドキャリアへの岐路:定年後、何をするか?

長年勤めたサラリーマン生活。気がつけば40年近くが経ち、60歳という節目が見えてきました。

会社からは「延長戦」という形で残る道も示されましたが、正直なところ、あまり気乗りしませんでした。給料は大幅に減り、これまでと同じような仕事に面白みを見いだせるだろうか… そう考えると、何か新しいことを始めたいという気持ちがむくむくと湧いてきたのです。

未知の分野への挑戦と現実の壁

とはいえ、具体的に何をするか、すぐには思いつきません。

東京の恵比寿に小さなオフィスを借りて、色々なビジネスの可能性を探る日々が始まりました。

錦鯉の輸出なんていう、ちょっと変わったことも調べてみたんですよ。でも、いざ業界を覗いてみると、新参者が入り込む隙間はなかなか見当たりません。限られた世界で、長年の経験や人脈がものを言う。そんな現実に直面しました。

「パン屋はどうだろう? 」と、パン作りの学校にも通ってみました。

しかし、これもまた甘くはありませんでした。毎日早朝から仕込みをし、一日中立ちっぱなし。想像以上に体力勝負の世界だと痛感し、これも自分には難しいかな、と。

「何かしたい」シニア世代と、シンガポールの思い出の味

そんな風にあれこれ模索する中で気づいたのは、世の中には私と同じように、60歳を過ぎても元気で「何かしたい」と思っている人がたくさんいる、ということ。

でも、「じゃあ何をするか」「どこで働くか」が分からない。元気なのに、活躍の場がない。そんな方が大勢いる現実を知りました。

そんな時、ふと思い出したのが、シンガポール駐在時代によく食べていた「肉骨茶(バクテー)」です。

 豚肉のスペアリブなどをスパイスとハーブで煮込んだ、シンガポールのソウルフード。日本でいうラーメンのような存在で、街角のあちこちにお店がありました。あの味が忘れられなくて、「これを日本でやってみようか」と思い立ったのです。

誰でも無理なく提供できる「肉骨茶(バクテー)」へ

もちろん、味の開発は簡単ではありません。本場の味を再現し、日本人の口に合うように調整するのに、かなりの時間を費やしました。

試行錯誤の末、提携した食品工場の協力のもと、ようやく納得のいく濃縮スープが完成しました。

これによってスープに煮込んだ肉を入れるだけという非常にシンプルなオペレーションで、誰でも美味しいバクテーを安定して提供できるようになったのです。

「これなら、私と同じように60歳を過ぎた方でも無理なく始められるのではないか」そう考え、フランチャイズ展開も視野に入れ、キッチンカーでの販売を決意しました。

なぜ店舗ではなくキッチンカーだったのか?

キッチンカーでの販売を選んだのには、明確な理由があります。

【理由1:体力的な負担の少なさ】

まず、体力的な負担が少ないことです。

キッチンカーなら、毎日営業する必要はありません。週に3日だけ、あるいは土日のイベントだけ出店するという働き方も可能です。実際、イベントは売上が大きいので、週末だけでも十分な収入が見込めます。

 私も60歳を過ぎてから3年半キッチンカーをやりましたが、出店ペースを自分で調整できるので、体力的に辛いと感じたことはありませんでした。

ランチタイムの営業が中心なら、忙しいのは実質1時間半程度。体力的な負担は店舗営業に比べて格段に軽いと言えるでしょう。現に、子育て中の主婦の方も活躍されています。

【理由2:開業・撤退のハードルの低さ】

次に、開業のハードルが低いこと。

店舗を構えると、居抜きであっても家賃、敷金、礼金など、初期費用や固定費が重くのしかかります。

その点、キッチンカーは車両さえ用意できれば、あとは出店場所に応じて費用が発生する程度。もし「自分には合わないな」と感じたら、キッチンカーを売却すれば比較的容易に撤退できる。

この「始めやすさ」と「辞めやすさ」は、新しい挑戦をする上で大きな安心材料になります。

最初から辞めることを考えるのは良くないかもしれませんが、リスクを抑えられるというのは大きなメリットです。

キッチンカーだからこそ味わえる「人との繋がり」

そして、実際にキッチンカーを始めてみて感じたのは、人との繋がりの面白さです。

サラリーマン時代は、エンドユーザーであるお客様と直接触れ合う機会は限られていました。

しかしキッチンカーでは、毎日がお客さんとの出会いの場。

「美味しかったよ」「ニンニクもっと入れてほしいな」「バラ先軟骨が好きだから、そっちを多めにして!」なんて、直接声をかけてもらえる。そんなお客さんとの何気ない会話が、本当に楽しい。心配していたメニューが意外な人気を集めたりする発見もあります。

さらに、キッチンカー仲間との温かい繋がりも、大きな魅力です。

サラリーマン時代にはいろいろな人がいて、中には気の合わない人もいました。

でも、キッチンカーで出会う仲間たちは、本当に気持ちの良い人たちばかり。お互いを尊重し、助け合う。ちょっと大げさかもしれませんが、映画『男はつらいよ』の寅さんのような、人情味あふれる世界がそこにはあります。

これまでとは全く違う、新しいコミュニティとの出会いは、私の第二の人生を豊かにしてくれています。

60歳からの新しい働き方、「もっと自由でいい」

60歳を過ぎ、会社という組織から離れてみて思うのは、「働き方はもっと自由でいいはずだ」ということです。

 体力的な不安、開業資金の心配、新しい人間関係…。色々なハードルがあるかもしれません。

でも、キッチンカーなら、そうした不安を軽減しながら、自分のペースで、楽しみながら働くという選択肢があります。

もし、あなたが定年後の働き方に少しでも迷いや不安を感じているなら、キッチンカーという道を少しだけ覗いてみませんか?

きっと、想像以上に面白い世界が広がっていますよ。